DX推進における「調整」は善澤記者的なアプローチで

縁あって、「日経クロステック EXPO 2020」および「SoftBank World 2020」にて弊社での営業DX・Salesforce活用事例の共有をさせていただきました。コロナ禍のためリアルな登壇ができなかったのは残念ですが、それは次の機会のお楽しみということで。

 

両イベントともいただいたテーマは「テクノロジーで実現するエンタープライズ企業のDX」ということで、ざっくり以下のようなことをお話しました。

  • 営業という業務はブラックボックス化しがちなので、テクノロジーを活用することでそれを回避する必要がある
  • リモートワークにおいて社員を管理するためにテクノロジーを活用するのでなく、メンバーの成長のために活用する
  • 営業DX自体をひとつのプロジェクトとして考え、プロジェクトのビジョンを掲げ、3ヶ月〜半年ぐらいのスパンで全体を振り返る

が、正直、あまりエンタープライズ企業に特有の課題解決事例はお話できなかった(というか弊社は"エンタープライズ企業"なんだろうか・・・)ので、その辺りをこちらに追記できればと思います。具体的には「調整」の話です。

 

いわゆる「調整」の必要性

おそらく多くのエンタープライズ企業には、既に成熟した営業プロセス・業務プロセスがあり、それによりある程度安定した成果が出ているはずです。DXは単なる業務効率化ではなくトランスフォーメーション、すなわちプロセスを大きく変革するアプローチですので、その安定をぶち壊しにいく必要があります。

当然、現場は抵抗します。なぜ成熟したプロセスを変えなければいけないのか?当然の反応です。ですが、テクノロジーを活用しプロセスを変革しなければ、その安定が長くは続きません。そのことは経営陣やDXの推進者はもちろん、実は現場もうっすらわかっていたりします。

 

といった状況で、現場の意見あるいは既存のプロセスを完全に無視してDXを進めるのは得策ではありません。例えば経営陣の力を借りてトップダウンで強制的に落とす選択も取れますが、あくまで動くのは現場であり、押し付けられたプロセス・押し付けられたテクノロジー活用は現場のモチベーションを下げ、成果につながらない可能性がきわめて高い。

一方で、現場の意見や既存のプロセスを過度に尊重することは、いわゆる「ツールを業務に合わせる」という、この手の取り組みにおける典型的なアンチパターン以外のなにものでもありません。これも避ける必要がある。

 

良い感じの落とし所を探り、できれば現場尊重1〜2:変革8〜9ぐらいのところに持っていけるように、DX推進者が調整しなければなりません。

 

インサイダー調整とアウトサイダー調整

私は、調整という業務を「インサイダー調整」「アウトサイダー調整」という2パターンに分けて考えています。これは、以下の記事からインスピレーションを受けて、最近自分の中で確立した考えです。

 

www.dhbr.net

仲介役には2つのタイプがある。第1のタイプは、橋渡しをすべき両方の文化に関する経験を持つ人だ。たとえば、大多数がインド人と米国人から成るチームでは、インドと米国両方の文化を経験した人がいれば、その人物は仲介役になれるだろう。私はこのタイプを「文化的インサイダー」と呼んでいる。第2のタイプの仲介役は、チームの中にはない、複数の文化の経験を持つ人である。たとえば、先ほどのチームにいて、オーストラリアと韓国のような国の文化を知っているケースである。このタイプは「文化的アウトサイダー」と呼んでいる。

 

わかりづらいので、アイドルマスターを例に考えてみます。

アイマスの世界では、プロデューサーとアイドルで意見が合わず対立することがしばしばあります。典型的なところだと、歌以外には興味のない如月千早(初期)と、歌う機会を得るためにも歌以外の露出を増やすべきと考えるプロデューサー、とかでしょうか。

アニメ等では、概ねアイドルとプロデューサーのどちらかもしくは両方の成長により、このような対立は解消します。が、実際には誰かが調整に入らなければ解消しないこともあるかもしれません。では、ここで調整役に適任なのは誰でしょうか。

 

パッと浮かぶのが、秋月律子です。りっちゃんです。

dic.pixiv.net

 

プロデューサーでありながらアイドルでもある彼女は、両者どちらの言い分も自分ごととして理解できるため、この場においては調整役として適任でしょう。「千早、それはあなたのワガママよ」とか、「プロデューサー殿は本当にアイドルの気持ちがわかってませんね」とか言ってるのが容易に想像できます。先ほど紹介した記事で言えば「インドと米国両方の文化を経験した人」ですね。

このような、対立する双方についての業務知識や経験があるメンバーによる調整、あるいはそうした業務知識や経験に基づく調整が、インサイダー調整です。

 

りっちゃん以外の調整役として、例えば善澤記者ならどうでしょうか。

dic.pixiv.net

 

善澤さんはアイドルでもプロデューサーでもありませんが、自分たちにある程度好意的かつ優秀な記者として、双方から十分な信頼を得ています。また、765プロだけでなく広くアイドル文化に造詣があります。より第三者性の強い彼だからこそ、同じ事務所の仲間には話せない千早やプロデューサーの本音を引き出し、対立の解消に向けて動くことができるでしょう。おそらく「アイドルの仕事って、何だと思う?」とか「高木社長は、以前にこんなことを言っていたよ」とか、一見関係ないような話から、対立を解消するような示唆を与えていく形になるのではないでしょうか。

このような、対立する双方に第三者的な考え方でアプローチし、質問をぶつけたり、出てきた意見を別の言葉に言い換えるなどして、対立する意見を徐々に一つの方向にすり合わせていくような調整が、アウトサイダー調整です。

 

一般的に「調整」と聞いて思い浮かぶのはインサイダー調整の方ではないでしょうか(対立する双方についての業務知識や経験が十分でなく、単にそのポジションにいるだけの人による調整、というケースも多いとは思いますが・・・)

 

DXの調整は善澤さん型のアウトサイダー調整で

インサイダー調整では、調整者というよりは調停者としての役割を求められがちです。そのため、調整の結果としての組織の意思決定がスピーディーになるメリットがある反面、以下のようなデメリットが存在します。

  • 対立する双方が100%納得する調整はありえないので、調整後も必ずどちらか(もしくは両方)にネガティブな感情が残る
  • 当事者が自ら意思決定していないため、「調整者が決めたことだから」と当事者意識が弱まりやすい
  • 最終的には調整者が決めるはず、という考えから、当事者による建設的な発言やアイデアが出てきづらい

 

これらのデメリットは、通常業務の延長で行われる調整においてはそれほど表出してきません。責任者がインサイダー的に入ってしまって、成功の道筋に向けてさっさと調整してしまった方がいい、というケースの方が多いはずです。

しかし、営業DXのような大きな変革においては明確に成功の道筋を描けるはずもなく、小さな失敗を現場での前向きな試行錯誤で乗り越えていく必要があります。「テクノロジー活用によるプロセスの変革は、経営や責任者が決めたことでなく自分たちが主体的に決めて取り組んでいることである」という現場の意識なくして、前向きな試行錯誤はなされません。

 

エンタープライズ企業のDXにおいては、多少時間がかかっても、善澤さんのように穏やかに当事者に寄り添いながら本音を引き出していく、そういった調整・推進を心がけましょう。

 

以上です

というわけで、営業DXのような大きな変革においてはアウトサイダー的にアプローチする調整が大事だよ、という話を無理やりアイマスを例にしながらさせていただきました。 

LIFULLの営業DX推進においては、推進者である私がもともと営業の人間でもなくこれまでSalesforce活用を推進してきた人間でもないため、アウトサイダー的にアプローチするしか選択肢がなかったことが、結果として良かったのではないかと振り返ってみると感じます。

 

たぶんネタが尽きるので、アイドル絡めて記事書くやつは続きません。いや別に誰が求めてるわけでもないんだけどね・・・

 

LIFULLでは、一緒に働くメンバーを募集しています。ご興味あればぜひ。

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